世界のCSIRTから ~アゼルバイジャン~

世界のCSIRTから vol.6

こんにちは、国際部の米澤です。3月初旬にアゼルバイジャンの首都バクーに出張し、CSIRT組織や人材育成施設など5つの関連組織を訪問する機会がありました。本記事では、その訪問の概要についてご紹介します。

火の国アゼルバイジャンと風の街バクー

バクー市街地とカスピ海

アゼルバイジャンは、カスピ海と黒海の間に広がるコーカサス地方に位置しています。天然ガスや石油などの豊富な資源を有し、地中から噴き出す天然ガスが燃え続けるヤナルダグという山があることから、「火の国」とも呼ばれています。

その首都であるバクーはカスピ海に面しており、中世の面影が残る旧市街の街並みと、経済発展を感じさせる近未来的な建物が共存する印象的な街でした。バクーはペルシア語で「風の街」を意味すると言われており、その名のとおり、カスピ海から吹き付ける強い風を実際に感じることができました。

アゼルバイジャンのCSIRT組織

アゼルバイジャンでは、政府、国内インターネット、研究教育ネットワークといったセクターごとにCSIRTが設置され、それぞれの役割に応じたサイバーセキュリティ対応が行われています。具体的には、CERT.AZ[1]、CERT.GOV.AZ[2]、AzScienceCERT[3]の3つのCSIRT組織が存在します。これらの組織は、セキュリティ対策の普及啓発やインシデント対応を通じて、国内のサイバーセキュリティ体制の強化に取り組んでいます。

FIRST加盟組織であるCERT.AZ とCERT.GOV.AZとは、これまでも国際カンファレンスやワークショップなどで連携する機会がありましたが、AzScienceCERT との交流は今回が初めてでした。以下では、各CSIRTの組織概要について簡単に紹介します。

CERT.AZ

CERT.AZの皆さんと記念撮影

CERT.AZは、2012年に設立されたCSIRTで、ICT政策、デジタル政府、通信インフラ、運輸インフラを所管するデジタル発展・運輸省(Ministry of Digital Development and Transport)傘下の電子セキュリティサービス(Electronic Security Service)が運営しています。

主に国内の情報インフラ関係者との連携や活動の調整を行うとともに、民間組織や一般ユーザーを対象としたインシデント対応支援、脅威情報の収集・分析、セキュリティ対策の普及啓発などに取り組んでいます。サイバー脅威への対応では、国内だけでなく国境を超えるサイバー脅威に対処するため情報共有活動を重視しており、日本を含む国際的なパートナーとも今後さらに情報共有を強化していきたいとの話がありました。

また、セキュリティ意識の向上を目的とした普及・啓発活動に積極的に取り組んでおり、テレビCMやPodcastを通じた情報発信のほか、アゼルバイジャンのデジタルIDアプリである「myGov」のプラットフォーム上でも注意喚起のメッセージを発信しているとの説明がありました。

CERT.AZとは、2025年8月にオンラインでワークショップを実施し、相互の活動や状況を共有していましたが、実際に現地を訪れることで、より緊急時の対応をスムーズにできると感じました。また、JPCERT/CCが主催するカンファレンスJSACにも参加いただいており、さまざまな場面で交流を行っています。

CERT.GOV.AZ

SCISSSおよびCERT.GOV.AZの皆さんと記念撮影

CERT.GOV.AZは、国家安全保障機関の一つである特別通信・情報セキュリティ国家サービス(SCISSS:State Service for Special Communication and Information Security)傘下に設置された政府向けCSIRTです。2008年に設立されました。

主に政府機関のネットワークを対象として、サイバー攻撃の検知や予防措置、政府ネットワークのセキュリティ監視、インシデント対応支援などを行っています。24時間365日体制のセキュリティオペレーションセンター(SOC)を運用しているほか、デジタルフォレンジックやマルウェア分析を専門に行うチームも設置されています。また、サイバーセキュリティ意識の向上を目的として、公式サイトとは別に脅威情報の発信を専門に行うWebサイトを運営し、脅威分析レポートや独自に開発したマルウェア分析ツールを公開しています。

インシデント調査の中で国外に影響が及ぶ可能性のある事案については、海外の連携先へ通知しており、今後も脅威情報の共有などを通じて相互に協力していくことを確認しました。

AzScienceCERT

情報技術研究所およびAzScienceCERTの皆さんと記念撮影

AzScienceCERTは、アゼルバイジャン国立科学アカデミー(ANAS:Azerbaijan National Academy of Sciences)の情報技術研究所(Institute of Information Technology)のもとで活動するCSIRTです。2011年に設立されました。研究・教育ネットワークであるAzScienceNetを利用する大学や研究機関、教育機関を対象として、情報セキュリティリスク管理やインシデント対応支援などを行っています。

情報技術研究所には、AzScienceNetのデータセンター、情報技術やサイバーセキュリティの研究を行うリサーチセンター、ネットワーク運用・監視を行うオペレーションセンターなどが設置されています。研究機関であることから、ソフトウェアエンジニアリングやデジタルフォレンジックなどに関する科学的・実践的課題をテーマとした研究や会議を行っているとのことで、こうした分野における国際交流に関心を持っているとの話がありました。

人材育成や民間組織の能力向上を支援する組織

アゼルバイジャンでは、CSIRT組織以外にも、サイバーセキュリティ人材育成や民間組織の能力向上を支援する活動が活発に行われています。今回の訪問では、以下の2つの関連組織を訪問しました。

Azerbaijan Cybersecurity Center

施設見学の様子

同センター[4]は、アゼルバイジャン国内におけるサイバーセキュリティ人材の育成を目的とした国家規模の教育・訓練拠点です。デジタル発展・運輸省とイノベーションデジタル開発庁が主導して、2023年に設立されました。また、Technion(イスラエル工科大学)が国際教育パートナーとなり、トレーニングカリキュラムや講師派遣などの支援を行っているとのことでした。

同センターのトレーニングプログラムの特徴は、大学のアカデミックな教育とは異なり、より実践的な能力構築を半年や1年の長期間で行う点です。例えば、実際のサイバー攻撃と防御のシナリオを想定した実践的なトレーニングが行われています。

トレーニングに参加するためには、選考試験を通過する必要があり、応募条件として17歳以上であること(年齢上限なし)、上級レベルの英語力と基礎的なITスキルを有することが求められます。60名の定員に対して約2000名の応募があるそうで、競争率は非常に高いとのことでした。提携の大学に所属している学生であれば、同センターでの活動が卒業に必要な単位として認められるのも人気の秘訣です。

これまでに同センターのトレーニングプログラムを修了した受講生は480名で、そのうち86%がサイバーセキュリティ業界に就職しているとのことです。企業とのインターンシッププログラムや卒業生との交流イベントなど、キャリアにつながる機会が多いことも、この高い就職率の理由の一つとの説明がありました。訪問時には施設を案内していただき、意欲にあふれた受講生の皆さんとも交流することができました。

アゼルバイジャンではこのような人材育成の取り組みに加え、民間企業や専門家のネットワーク形成を通じてサイバーセキュリティ分野の発展を支える活動も行われています。

Association of Cybersecurity Organizations of Azerbaijan(AKTA)

AKTAの皆さんとの会議の様子

同協会[5]は、2022年に設立された、アゼルバイジャン国内のサイバーセキュリティ関連企業・組織・専門家を束ねる非営利の民間団体です。国内のサイバーセキュリティ分野における企業や専門家を結び付けるプラットフォームとしての役割を担い、サイバーセキュリティ環境の強化、人材育成・教育・啓発、政府と民間の連携促進、情報共有や共同活動の推進などを通じて、アゼルバイジャンにおけるサイバーセキュリティ対応能力の強化とエコシステム形成を目的として活動しています。

現在、約60社の企業メンバーが参加しており、サイバーセキュリティ企業やIT関連企業、通信事業者、教育機関が含まれているとのことでした。昨今の課題としては、重要インフラ分野でのセキュリティ対策が進んでいる一方で、中小企業における対策が十分に進んでいない点が挙げられていました。そうした課題に対応していく上でも、このような民間団体の活動が重要な役割を果たしているようです。

また、トルコ、カザフスタン、ウズベキスタンなどの企業や専門家との交流を通じて、教育や産業分野における国際的なネットワーク構築にも力を入れています。同協会はNational Cybersecurity Forumという国際イベントを主催しており、重要インフラ保護、国際協力、能力構築、サイバー外交などのテーマについて講演や議論が行われているとのことでした。日本からのスピーカーの参加についてもぜひ検討して欲しいとの話がありました。

おわりに

アゼルバイジャンでは、デジタル化の進展に伴い、国家レベルでサイバーセキュリティ体制の強化が進められています。2023年には「情報セキュリティおよびサイバーセキュリティ戦略(2023-2027)」が策定され、重要情報インフラの保護、サイバー脅威への対応能力の強化、人材育成、国際協力の推進などが重点分野として掲げられています。今回の訪問を通じて、政府機関や民間企業、研究機関がそれぞれの役割を担いながら相互に協力し、国全体としてサイバーセキュリティ能力の向上に取り組んでいることが分かりました。

また、現地で出会った関係者の皆さんは、サイバーセキュリティ分野における取り組みや国際協力をさらに強化していこうとする前向きなエネルギーに満ちており、それは発展を続けるバクーの街の雰囲気とも重なり、私たちにとっても大きな刺激となりました。今後もこうした交流を通じて、各国のCSIRTとの連携を深めながら、国境を超えるインシデントや脅威への対応を中心に、情報共有の取り組みや協力関係を広げていきたいと思います。

国際部 米澤 詩歩乃

参考情報

[1] CERT.AZ
https://cert.az/

[2] CERT.GOV.AZ
https://cert.gov.az/

[3] AzScienceCERT
https://azsciencenet.az/az/service/3

[4] Azerbaijan Cybersecurity Center
https://www.akm.az/

[5] Association of Cybersecurity Organization of Azerbaijan
https://akta.az/en

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